レイジング・ブル あらすじと感想 デニーロの往年の名作!

あらすじ

 ジェイク・ラモッタはボクシングのミドル級ボクサー。1941年、デビュー以来無敗を誇っていたジェイクが初めての敗北を味わうこととなる。試合を優勢に進め、7回ものダウンを奪ったにもかかわらず、判定負けを喫してしまったのだ。怒りの収まらない彼は妻やマネージャーをしている弟のジョーイなど周囲の人間に怒りをぶつける。
そんな鬱々としたある日、まだ15歳のブロンドの少女・ビッキーと出会ってしまう。不思議と荒んでいた心も彼女と会うことで癒されるようだった。だが、彼には妻がいる。構う様子のないジェイク、ビッキーも妻の存在を知りながらも交際を始めた。
1943年、ジェイクはタイトルマッチを狙えるほど戦績を積み上げてきたが、またしても不利な判定に屈する。そんなジェイクに取り入ったのが八百長試合を仕組む組織の大物・トミーだった。彼の誘いをずっと拒み続けていたジェイクであったが、タイトルマッチの誘惑に負け、八百長試合を引き受けてします。その見返りで彼は念願のチャンピオンへの挑戦が認められた。
いよいよ1949年、タイトルマッチにてジェイクは見事にマルセル・セルダンを下し、チャンピオンベルトを手にした。しかしその裏で、ジェイクの病的なまでのビッキーへの猜疑心が彼を破滅へ導いていった。1964年、あるクラブに太ったコメディアンがいた。それこそ変わり果てたジェイクだった。

見どころ

主演のデ・ニーロは、ミドル級チャンピオンまで上り詰めた鍛え上げられた肉体と、引退後の肥満体型を表現するために体重を27キロも増減させて役に挑んだ。あまりにも過酷な体重管理をやってのけたデ・ニーロの演技は鬼気迫るものがあり、一人の男の人生の光と影を生々しく描き出している。

・マーティン・スコセッシ…「タクシードライバー」、「グッドフェローズ」の後に「ギャング・オブ・ニューヨーク」、「アビエイター」、「ディパーテッド」とレオナルド・ディカプリオと3作に渡ってタッグを組み、アカデミー作品賞とアカデミー監督賞を受賞した。
・ロバート・デ・ニーロ…「タクシードライバー」、「グッドフェローズ」、「ケープ・フィアー」、「カジノ」とマーティン・スコセッシ監督と数多く名作を生み出している。徹底した役作りは「デニーロ・アプローチ」という言葉を生む。
・ジョー・ペシ…俳優として芽が出ず、レストランの支配人をしている時に、デ・ニーロから「レイジング・ブル」の出演をオファーされる。その後もマーティン・スコセッシ監督の作品に出演し、アカデミー助演男優賞を受賞する。

感想

 実在のボクサーだけに人生の浮き沈みが痛々しくもある。ボクサーとしての実力はあったのだろうが、きわめて利己的な人物だといえる。妻子がありながら迷いもなく15歳の女性に手を出して、二番目の妻となったビッキーへの嫉妬やDV、マネージャーをしている弟への暴言など見ていてあまりにも醜い。
 さらには八百長試合への関与など、間違いだらけの選択をして落ちぶれていく姿は同情すらない。スポーツを夢かビジネスかの捉え方によって違うのだろうが、積み上げる戦績に反比例するように堕落していく人間性は見ていて目を背けたくもなる。そしてデ・ニーロの表情と威圧的な話し方すべてが狂気をはらんでいて、ビッキーとの間に漂う不穏な空気がジワリジワリと恐怖を募らせていく。堕ちていく人間の怖さの表現はさすがデ・ニーロである。ただ観る人間を選ぶ作品ではあるが、人間の裏側を覗き込んでみれば、大概の人間がこんなもんではないだろうか。ほとんどが選択できずに現状維持をするのだが、ジェイクは良い方向か悪い方向かは別にして選択をできてしまう人間なのだろう。綺麗事では終わらせないマーティン・スコセッシ監督ならではの映画で、自分では歩めない破滅的な人生を覗いてみたい人には興味深い映画だろう。