マッハ! スタントマンなし!本物のアクション映画

あらすじ

 ムエタイを武器に戦うティン。ある日、タイの敬虔な仏教徒が暮らす村で、信仰の象徴である仏像”オンバク”の首が盗まれてしまう。悲嘆にくれる村人達を見て、一人の男が立ち上がった。タイの国技であるムエタイの奥義を極めた男ティンが戦いを繰り広げる爽快なアクション映画。

見どころ

ティンを演じるトニー・ジャーはスタントなし、ワイヤーワークなし、CGなし、早回し編集なしというないない尽くしの演出の中で、実に俊敏で、かつ躍動的なアクションを見せてくれた。よりアクションを楽しむためか、時折リプレイが挟まれる演出がアクション好きの心をくすぐる。ストーリーとしては青年が敵に立ち向かい撃破するというシンプルなものだが、トニー・ジャーの身体能力の高さとアクションの精度が良いスパイスとなりラストまで飽きさせない。疾走感があり、鑑賞後は爽快な気分になれる映画である。

感想

トニー・ジャー…剣術、ムエタイ、テコンドーと数々の武術を習得し、スタントマンとして経験を積んできた。「マッハ!」の主演で注目を浴び、その後は多くのアクション映画で自身の鍛え上げられた技術を見せつけている。
 
決して皮肉ではなく単純なストーリーがよかった。昨今の難解な映画やどんでん返しばかりの映画も監督や脚本、演者が「より観客の記憶に刻まれる作品を」との意気込みでつくられているのだろうが、「マッハ!」のような先の読める映画はただ楽しむという点に置いては最高だろう。
ティンがヒーローであり、悪者は悪者らしくいてくれるので、容赦なくぶっ飛ばしてくれると実に爽快である。決して難しい謎解きもない、ただ盗まれた悪者を倒して仏像を取り返すというシンプルすぎる焼き増しストーリー。だが見飽きたはずのストーリーで観客を飽きさせないのは圧倒的なアクションの力だろう。どの映画でも多用されているCGはなし。ワイヤーワークもなし、早回し編集なしとくれば演者の身体能力次第。スタントマンとして経験を積んできたトニー・ジャーの身体能力は圧倒的で、実に疾走感と躍動感に溢れる姿を見せてくれる。またジャッキー・チェンへのリスペクトなのか、ところどころで初めてカンフー映画を見た時のような高揚感を感じるのもいい。ただラストの余韻がないところ、エンドロールのNGシーンはあまりにも真似すぎていて、それをやっているかぎりはジャッキー映画を超えられないと若干残念な思いもあった。そしてもしジャッキー映画を真似るのであればお笑い要素も適度に入れてもよかったのでは、と思う。
初めてミュージカル映画を観た時は、随所で演者が突然歌いだすシーンに唖然としたものだったが、「マッハ!」で挟まれるリプレイシーンはむしろありがたく感じる。ティンの鍛え上げられたしなやかな肉体を堪能させてくれるファンサービス。またリプレイでぶっ飛ばされる悪者へ同情を感じずに済むのは、変に仏像を盗んだ背景を見せずに悪者であることをまっとうしてくれているから。徹底してアクション映画に徹しているからこそ純粋にアクションを楽しめる。この映画の成功はそこにあるだろう。
トニー・ジャーがこの撮影を無事に終えたことに心から安堵する。それほど肉体を酷使する限界に挑戦したアクションの連続なのだ。
また垣間見えるタイという国が抱える悲哀は見ていて胸が痛くなった。薬を買って現実から逃れようとする若者、若者が落ちていくとわかりながらも売らねば生活できない売人。これがタイの現実だと思うとティンの純粋さがかえって切なくなってくる。基本的にはアクション映画に徹してくれているのだが、ハリウッド映画で深読み裏読みする癖がついたせいでタイの光と影までちらついてしまって、ただ痛快なだけの映画とはいえなくなってしまった。